ワガママ
「ねえ、ごはん何?」
今日は草灯の家でお泊りの立夏は夕食の準備をする草灯に聞く。
「はい、ごはん」
そう言って目の前に出されたのは皿に乗った生魚だった。
一瞬、目を丸くしてきょとんとしていた立夏だが、ムッとして草灯を睨む。
「なに、これ」
「猫ってお魚好きでしょ?」
「オレは猫じゃねぇよ(ナマはイヤ!)」
もちろん草灯も冗談のつもりなので、クスクス笑って皿に乗った魚を焼く。

食事が出来ても立夏は焼き魚に手をつけようとしない。
「立夏、食べないの?魚嫌い?」
「ううん」
そう答える立夏だが、やはり食べようとしない。
猫舌の立夏は熱いのが苦手だということは知っているが、どんどん冷めてしまう。
「なんで食べないの?」
草灯が聞くと立夏は焼き魚の皿を草灯の前に押す。
「なに?」
「骨、取って」
………ごめん、ちょっと意味がわからない」
「魚の骨取らないと食べれないだろ」
だから取ってくれ、と言いたいらしい。
最近の子供は魚の骨が嫌いだから食べないという話は、草灯も聞いたことがある。
立夏は好き嫌いが多いが、そうなのかと草灯は呆れる。
「魚の骨くらいちゃんと自分で取らないと。家ではどうしてるの」
「家じゃあんまり魚出ないし」
『立夏』が魚嫌いだったようで、家ではあまり魚は食事に出ない。
そんな事情など知らない草灯は言う。
「立夏、もう6年なんだから魚の骨くらい、ちゃんと自分で取って食べないと」
草灯に言われてムッとしている。
「じゃあ、いい」
ツーンとそっぽを向く立夏にやれやれと思う草灯が口を開きかけたところ、立夏がぼそっと呟く。
「やってくれないんならいい」
そう言って立夏は押しやった皿を自分の前に持って来て魚を食べ始める。
「…いつも魚食べる時、どうしてたの?」
「清明はやってくれてた」
清明は魚の骨が喉に刺さるといけないから、と言って取ってくれたと立夏は言う。

清明がそんなことをするとは草灯には意外だ。
清明は5才年が離れている弟の立夏を可愛がっていたということは、草灯も知っていることだが、そんなことまでしていたとは驚きだ。
もっと小さな子ならわかるが、いくらなんでも立夏は小学6年生なのだから、過保護過ぎたのではないだろうか?
清明って過保護だったんだね、とは言いにくい。

自分で食べる立夏を見て、まあいいかと思っていると、立夏がむせ始める。
「立夏っ?」
魚の骨が喉に刺さって咽た立夏が落ち着いて、よく話を聞くと以前にも魚の骨が刺さって取れずに、救急病院にまで行ったことがあるそうだ。
その時から清明は魚の骨を取って立夏に食べさせていたのだという。
単なるわがままや過保護かと思えば、そんな経緯があったらしい。
(そういえば、立夏ってちょっと不器用だっけ)
そう考えれば、魚の骨を取るという細かい作業は立夏には不向きなのかも知れない。
「ほら、オレちょっと不器用だし。面倒だからバクッて食うと、必ず骨飲み込んじゃうんだよな」
「必ずって、そんなに?」
草灯が聞くと立夏は少し恥ずかしそうに頷く。
「わかりました。取らせて頂きます」

草灯は立夏に魚を食べさせる時は骨を取ってやることになった。
それと同時に、不器用な立夏は箸の練習をすることになった。

〜END〜

清明様は立夏たんを溺愛して過保護にしてるといい
草灯は立夏たんに奉仕するといい
清明様も草灯もワガママな仔猫ちゃんに尽くすといい
立夏たんはちゃんと骨を取って食べると思いますけどね(笑)
web拍手3月のお礼その2でした
2006.3.31 UP

SSメニュー
小説メニュー
HOME
無料ホームページ掲示板