真昼の月
9月も中旬にもなると午後3時を過ぎたあたりから風が冷たくなる。
日中はまだ暑いのに、日が暮れると肌寒いくらいだ。

日没にはまだ少し早く、家の近くの土手に座って門限までの時間を過ごす。

まだ青空だが、これからだんだんと夕焼けに染まるであろう空に、ぼんやりと白い月が浮かび上がっている。

「なに見てるの?」
じっと空を見つめている立夏に草灯が聞いてみると立夏は空を指差す。
「月。見えるなぁって」
「本当だ」
立夏が指差す空を草灯も見上げて答える。
「月っていつもあるのに、暗くなってからじゃないと意識しないよな」
「そうだね」
立夏はちらりと隣に座る草灯を見る。
(草灯みたいだ…)

なんとなく、青空にそっと白く浮かび上がる月を草灯のようだと思う。
いつも本当はそこにあるのに日中はあまり、その存在を意識することがない。
だけど夜には存在感が強くなる。
満ちたり欠けたり姿を変え、時々燃えるような色になることも。
地球の引力に引かれて周りを回り、地球に強い影響を与える。
草灯が月なら自分が地球ということか。
草灯はストーカーを自称しているだけあっていつも自分の側にいる。
振り回されたり心を乱されたり影響されているのはそうかも知れない。
そう思うのは少し図々しいような、自惚れが過ぎるような気もするけれど…。
戦闘機とサクリファイスの関係がそうなのではないのか?とも思える。
それに、月を追いかけても追いつけないのに、離れようとしても離れない。
年齢という絶対の差のようだとも言える。
まさに草灯そのものだな、と立夏は思う。

「なに?」
立夏の視線に気付いて草灯は笑みを浮かべて聞いて来る。
「べつに…」
おまえのことを考えてたんだ、なんて言えなくて立夏はふいっとそっぽを向く。

ざあぁ…と時折り強い風が河原の海原を波立たせ、草灯の色素の薄い柔らかい髪や、立夏の獣耳や黒髪を撫でていく。
言葉を交わさなくても、気まずさは感じない。

「少し寒くなってきたな」
半袖の腕をさする立夏に草灯が着ているシャツを脱ごうとするのを見て、立夏は言う。
「いいよ、草灯が寒くなるじゃん」
ノースリーブのTシャツ1枚になり、草灯は立夏の肩にシャツを掛けてやる。半袖のシャツだが立夏には大きいからマシだろう。
「オレは大丈夫。体温高いの、知ってるでしょ」
草灯の体温が残るシャツに肌寒さは感じなくなった。
まるで抱きしめられてるように感じて立夏は少し頬を赤らめる。
門限まであともう少し、こうしていたいなと立夏は思う。

「月の裏側って何があるのかな…」
手をかざせば手の平に隠れてしまう月に、なんとなく言った立夏の言葉は、風にさらわれた。
「何か言った?」
風でよく聞こえずに問い掛ける草灯に、立夏は首を振る。
「明日あたり満月かなって言ったんだよ」
なんとなく、月が草灯のようだと言うのは恥ずかしくて、限りなくまん丸に近い月を見て立夏が言う。
「そういえば、もうじき『仲秋の名月』だね」
「なに、それ?」
立夏は聞き慣れない言葉を口にする草灯に、ぱちぱちと黒目がちな大きな瞳を瞬きさせる。
「お月見するんだよ」
「わかった!お団子食べるんだ」
ミミをピーンと立てて言う立夏に、草灯はくすくすと笑う。
「立夏は『花より団子』だね」
風情がないとか食い意地がはってると言われ、立夏はむっとした表情をする。
「立夏はまだ色気より食い気だもんね」
「もう、おまえと口きかない」
ぷいっとさらにそっぽを向いてしまう立夏に草灯はくすくす笑う。
「立夏」
呼びかけても立夏は返事をしてくれない。
草灯は手近にあったねこじゃらしを毟り、立夏の前にちらつかせる。
「怒らないで」
「怒ってない」
草灯がちらつかせるねこじゃらしをパシッと立夏は掴み、それを弄びながら立夏は聞く。
「お月見って何のためにするんだ?」
「うーん…よく知らないけど、お花見なんかと一緒で、風情を楽しむものかな?」
「ふぅん?」
「お月見、一緒にしようか」
「本当?オレ、お月見ってやったことない」
「じゃあ、約束」
「うん」
立夏はぱたぱたとしっぽの先を振る。
「いつやんの?」
「いつかな。調べておくよ」
楽しみだなー、と言う立夏の楽しみが一緒にお月見することだと思いたいが、花より団子な仔猫にとって、この分だと目当ては団子なのかも知れない。

〜END〜

子供は風流よりも食い気でしょう(笑)
なんだかこじつけっぽいけど、お月見編は執筆中ですのでお待ち下さい〜
2006.9.17
2006.10.9

SSメニュー
小説メニュー
HOME
無料ホームページ掲示板