言えないきもち
「もうすぐ七夕だね」
夕暮れの家までの帰路、草灯に送って貰いながら二人で歩いていると、唐突に草灯が言った。
「立夏は何をお願いするの?」
「そういうのは口に出したら叶わなくなりそうだから、言わない」
ポケットに両手を入れて歩く立夏は、草灯の質問に答える。
「でも七夕には短冊にお願い事書くでしょ」
「おまえには言わない」
「なんで?教えてよ」
単に知りたいだけなのか、興味や好奇心からか聞いてくる草灯を立夏はちらりと見上げる。
「あえて言うなら、『大人になるまでミミとしっぽが落ちませんように』だな」
「…それってイヤミ?なのかな」

もちろん、立夏が言ったのは、ことあるごとにちょっかいを出して、やたらに触る草灯に対してのイヤミだ。

「正確に言うなら『草灯にミミとしっぽ落とされないように』だ」
「ひどいなぁ」
「どっちが。小学生相手に犯罪だぞ?普通」
小さなご主人さまはつれない。
「立夏が訴えれば、ね」
出来ないだろう、と思っているのかと立夏は草灯の言い方に、むっとする。
「草灯が捕まったら毎年七夕には会いに行ってやるよ」
ポケットに両手をつっこんでスタスタと歩きながら、立夏は言う。
当然、冗談だが。
「嬉しくないなぁ。毎日会える方がいいよ。
第一、もしそうなったとして。具体的にどんなことしたか証言させられるよ?」
訴えたら、の話だが具体的にどんなことをされたのかということを話さなければならないと聞いて、立夏は「う……」と言葉に詰まり、眉を寄せてミミを伏せる。
「警察であれ裁判官であれ、赤の他人にオレとどこでどんなことしたか言えるなら、七夕のお願い事くらい今、言えるよね?」
(言いたくないんだってば…)
むーっと眉根を寄せて立夏は無言になってしまう。
「どうして言えないのかな」
「どうして言わせたいんだよ」
「それはやっぱり、立夏の願いごとならオレが叶えてあげたいから」
しれっとそう答える草灯に、立夏は立ち止まると草灯も足を止めた。
「なんで?」
「べつになにかをしてあげて感謝されたいわけじゃないよ。
ただ、立夏が喜ぶ顔が見たいから」
草灯の言葉に、草灯を見上げていた立夏は視線を逸らし、しっぽをふらふらと揺らす。

立夏の喜ぶ顔、笑顔を見てみたいと思う。
少し無口であまり自分の気持ちを話さない子だから。
年よりも大人びたところがあるけれど、無邪気に笑う笑顔がたまらなくかわいくて好きだから。

「…いいよ。何もしてくれなくても」
「どうして?」
聞き返す草灯に、立夏はその手をそっと握る。
「草灯がそう言ってくれることが、嬉しかったから…」
俯いてぼそぼそと話す立夏は耳まで赤くして、ぺたんとミミを寝かせている。

ただ笑った顔が見たいからと言って、命令ではなく願いを叶えようとしてくれる気持ち。
誰かのために何かをしてあげたいと思うこと。
見返りを求めない気持ち。
それが愛情だと思えるから。
その気持ちだけで、十分だと立夏は思う。

立夏は顔をあげると笑顔を見せた。
そして、家路を手を繋いで歩き出した。

ほんとうに欲しいもの、願いは自分を本気で愛してくれる気持ち、それを与えてくれる人。
そして自分も本気で愛せる人。

叶っているのかも知れないが、今はそれを口に出して確認しなくてもいいような気がした。

〜END〜

七夕にまつわるお話でしたー
本当に草灯って犯罪くさいよね…
でも立夏たんはあれですよ、草灯に気持ちを話したり、が照れ臭くて言えないコだと思うけど、「どこでどんなことしたか」って一体何をされてるんでしょうか(笑)
おそまつでした〜☆
2006.8.4 UP

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