リップクリーム
「立夏くん、なんか唇カサカサしてる?」
「え?そうかな」
立夏はユイコに指摘されて自分の唇を触ってみる。
ユイコはごそごそとバッグを探って、リップクリームを取り出した。
「はい。これ塗るといいよ」
「「えっ」」
ユイコを真ん中に挟んだ、立夏からは反対側に座る弥生も、立夏と同時に声を上げた。
「い、いいよ…」
立夏はミミを横にして拒否する。

リップクリームなんて女の子が塗るものだ、という認識が立夏にはある。
ユイコが差し出しているそれは薬用と書いてはいるものの、「ほのかなストロベリーの香り」などと書かれていて、しかも色もピンクらしい。
男の自分が、ピンクの、それもイチゴの匂いのするリップクリームなんて…と立夏は思ってしまう。

(あああ…ユイコさん!そんなものを青柳くんに貸すなんて…!っていうか!それは、間 接 キ ッ ス…!
青柳立夏!ここは断固として断るべきだ!)
弥生は眉間にシワを寄せて両手を握り締めて立夏に念を送る。

「ダメ!唇の皮剥けちゃったら血が出ちゃうよ!」
強引にリップクリームを勧めるユイコに、立夏はミミを伏せて断る。
「いいってば」
(そうだそうだ、断るんだ!っていうか、ボクが代わりたいっ)
弥生は影ながら少々ヨコシマな思いで立夏を応援する。
そんな弥生の心情や立夏の気持ちを無視するかのように、ユイコはリップクリームの蓋を取って立夏に迫る。
「わたしが塗ってあげるよ!」
「いいってば!平気だからっ」
「何してるの?」
「わあぁぁあ!?」
公園のベンチに座る3人の背後、植え込みから声を掛けられて立夏は大袈裟に驚く。
「草灯さん、こんにちはぁ」
「こ、こんにちは…(出たー)」
「草灯!いきなり出てくんな!」
呑気に挨拶をするユイコと何故かびくびくしている弥生、そして立夏はびっくりして心臓を押さえながら文句を言う。
「どうしたの?」
「立夏くんの唇がカサカサしてるから、リップクリーム塗ってあげようと思って。でもイヤがるんですよー」
草灯が再度質問をするとユイコが説明する。

ユイコが手にしている赤みの強いピンクのリップクリームを見て、草灯はなるほど、と思う。

「ユイコちゃん、立夏は男の子だから、その色つきのリップクリームは抵抗あると思うよ」
草灯に言われてユイコはきょとんとする。
「そうかなぁ。でもこれ、そんなに色はつかないよ?」
「って、言われても…(ヤダ)」
「ピンクのかわいいよ」
にっこりと笑うユイコに立夏はがくりと肩を落として項垂れた。
「とにかく…いいから…(かわいくてどうする…)」
たしかに、ピンクのリップを塗ったらかわいいだろうな、と思いつつもユイコの天然さに草灯はクスクス笑うと、立夏に睨まれた。
「じゃあ、コンビニ行こうか?ユイコちゃんも心配してるし立夏には男の子用の、薬用の無色のリップクリーム買ってあげるよ。ついでに皆でアイスでも食べる?」
草灯が提案するとユイコは元気よく手を挙げて「行くー!」と返事をする。

草灯の提案でユイコが使っているピンクのリップから逃れられて、立夏はほっとした。
が、そこにもう一人、間接キスを阻止した草灯に心の中で感謝をする弥生がいたことに、他の3人は気付かなかった。

〜END〜

ピンクのリップ塗ったらかわいいでしょうね〜
しかもイチゴの匂いですよ
そんなの塗った日には草灯にちっすされるに違いない☆
弥生さん、こんな役割りでごめんよ〜!
初出:拍手お礼
再録:2006.8.4 UP

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