春待ち人
3月も半ばになると天気予報は桜の話題も多くなり、開花宣言がいつなのかということが注目される。
陽射しも明るくなり、日当たりがいい場所の桜の木々も花芽が大きく膨らんでいる。
最近の立夏の楽しみは通学路や学校の敷地内にある桜の花芽の成長だ。
いつ咲くのかと思うとわくわくする。

だからそれを見つけた時の立夏は、それを見つけた時の喜びを誰かに伝えたかった。

公園の桜の木の中、たったひとつだけ咲いた早咲きの桜の花。
嬉しくなってデジカメで撮ろうとしたが、どうせなら直接見せたいと思って電話で呼び出した。

「立夏」
公園のベンチに座っている仔猫に近寄り、草灯は声をかける。
立夏からの電話は1時間ほど前、「見せたいものがあるから来てくれ」という内容だったが、珍しく少し興奮したような様子だった。
立夏はベンチから立ち上がると駆け寄って来て、コートの袖を掴むと引っ張って行く。
蕾がついている桜の木の前で立ち止まり、立夏は一箇所を指差して見上げてくる。
「ほら、あれ!ひとつだけ咲いてるんだ」
嬉しそうに立夏は長い尾を振り、ミミをピーンと立てて言う。
草灯は立夏が指差した枝に目を向けると、たしかに小さな花がひとつだけ咲いている。
「本当だ。よく見つけたね」
公園には沢山の木があり、その中にも桜はいくつかある。
たった一輪だけ咲いている花を見つけた立夏に草灯は感心する。

暦の上ではすでに春だが、ここ数日は寒さが戻り春を体感するのはやはり桜の開花だ。
桜が咲いて、ようやく春を迎えたという実感を得るのが日本人だろう。

「これを見せたかったんだ?」
「うん。春を見つけたから、誰かに教えたくて。写真じゃなくて見せたかったんだ」
1番にそれを教えてくれたこと、そしてその「誰か」が自分であることを草灯は嬉しく感じる。
「春を見つけた、か。いい言葉だね」
「早く満開になったトコ見たいな」
そう話す立夏は春が待ち遠しい様子で、ゆらゆらとしっぽを揺らす。
「桜が満開になったら、お花見に行きたいな」
「オレお花見ってしたことない」
「じゃあ、桜が咲いたらお花見に行こうか」
立夏は表情を明るくして「本当!?」と聞く。

テレビニュースでも、大人たちが桜の木々の下で宴会をしているのは見たことがある。
お花見とはいうものの、それは口実なのかなと思ってもいた。
理由は何でもよくて、ただ集まって騒ぎたいだけの人種を立夏は思っていた。
そしてそれを馬鹿馬鹿しいとすら思ってもいたが、不思議と楽しそうだなと思う。

「どうせなら、お弁当持って行くのもいいね」
「遠足みたいだな」
立夏はお花見が楽しみらしく、うきうきとして話す。
「ユイコと弥生さんと、奈津生と瑶ニと、キオと…」
お花見に一緒に行くメンバーを挙げながら立夏は指を折って数える。
「2人じゃないんだ?」
草灯は立夏と2人のつもりで話していたので、立夏がみんなも一緒のつもりだと知り、笑う。
「だってお花見って大勢でやるもんだろ?」
大きな目をパチパチと瞬きをさせて当たり前のように言う立夏の『お花見』のイメージはそういうものらしい。
立夏がそうしたいならいいか、と草灯は思う。
「楽しみだな」
そう話す立夏の笑顔に草灯もそうだね、と答えた。

小さな春の訪れを眺め、2人で桜が満開になる春に心を馳せた。

〜END〜

桜の開花宣言が間違ってたそうですが、関東でももうすぐ…ということで桜のお話にしてみたです
北海道は5月なんですけどねー
今年はうまくいけばGW頃に見れるかな?
お花見編は日記小説にて連載中(`07.3.20より)
拍手:2007.3.20
再録:2007.4.12

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