相互理解
「相互理解が必要だと思うんだ」
唐突に立夏が言い出す。
「たとえば?」
「オレ、草灯のこと何も知らないし。信頼関係って、お互いの長所と短所を認め合った上で成立するものだって、本に書いてたから」
「なるほどね」
「草灯はオレのことどう思ってんの?」
「好きだよ」
草灯が即答すると、立夏は赤くなる。
「っ違う!そういうんじゃなくて…長所と短所って言っただろ」
「そうだなぁ。立夏は我慢強くて年のわりには賢いし、大人びてるし。それにかわいい」
「…最後のはいらない。つーか、それは長所じゃないし。性格とかそういうのだって言ってるだろ。短所は?」
パタパタとしっぽで床を叩き、不満そうに立夏は更に質問をする。
「怒りっぽいよね。あと意地っ張りで素直さに欠けるかな」
「う……」
自分で言えと言っておきながら、短所を言われるとミミを横にしてしまう立夏に草灯はくすっと笑う。
「そういうところも好きだけどね」
「好きか嫌いかはどうでもいいのっ」
「そうかなぁ?だって、長所はその人のいいところで短所は欠点だとか、あまり好きじゃないとか気に入らないとか、そういう部分なんじゃないの?普通」
「そうかも知れないけど…」
「長所も短所も全部、オレは好きだけどね」
「………」
フローリングの床の継ぎ目を指でなぞり、照れている立夏に今度は草灯が聞く。
「今度は立夏の番」
「草灯は…すぐ命令しろとか言うし、ストーカーだし変態だし、ところかまわずキスしてくるし、やたら触ってくるし…」
「ちょっと待って」
指折り数える立夏の手を握って草灯がストップを掛ける。
「性格とか、そういうのじゃなかったの?」
「…変態性って性格じゃないのか?」
立夏の言葉に草灯は「ひどいなぁ」と苦笑する。
「じゃあ長所は?」
「えーと……」
長所は何かと考える立夏はそれっきり黙り込んでしまう。
それどころか、だんだんとミミが横に寝て、頬が赤くなっていく。

草灯の長所を考える立夏は、それが長所というよりも好きなところかも知れないと思うと、口に出せなくて恥ずかしく感じた。

「そんなに考え込むくらい、思いつかないのかな」
「え、え…絵がうまい…?」
「ありがとう。でもそれは性格じゃないでしょ?」
「ウッ……」
「なんで赤くなってるの?」
立夏の頬を包むようにして顔を上げさせると、手を払われてしまう。
「何でもねぇよっ」
(何考えてたんだろう)
立夏は立ち上がると、椅子に座って背中を向けてしまう。
「相互理解が必要なんじゃなかったの?」
「……もういい…」
「なんで?立夏が言い出したのに」
「もういいったら、いいの!」
「ほら、また怒ってる。ねえ、なんで怒ってるの?オレが何か気に入らないことしたかな」
「…ごめん」
「いいけど。つまり、オレの長所はないと、そういうことなのかな」
「よく知らないから…わかんないだけ…」
立夏は言い誤魔化した。
「で、なんで赤くなってるの?」
「何でもねぇよ。おまえ熱いからじゃないの?」
「オレは暖房ですか」
言いがかりだということはわかるが、立夏が何を考えて赤くなっていたのか草灯は気になるが、聞き出そうとすると意地っ張りだから、きっと話してはくれないに違いない。

〜END〜

長所はいいところ、好きなところ、短所は出来れば直して欲しいところ…でもありますよね
立夏が長所を考えてるうちに、好きなところかも知れないと思ったことはなんでしょうね?(笑)
そりゃ言えないよね☆
初出:web拍手
再録:2006.7.2 UP

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