ねがいごと
「グループ発表の、あれ図書館に調べに行かないか?」
「賛成。学校の図書室だけじゃ資料足りないよな」
「じゃあ今から行く?」
「ごめん、僕は今日はちょっと」
下校のために級友と、グループ発表の研究課題のことを話しながら、清明は歩く。
「なんか用事?」
「あ。あれ青柳の弟じゃないか?」
そう言って級友が指差す先は校門。

校門の影からぴょこっと頭を出している子供がいる。

黒髪に黒いミミの少年の姿は、級友に言われるまでもなく視界に入っていた。
ちらちらとこちらを伺う様子に、清明は口元に笑みを乗せる。

「青柳って兄弟仲いいよな」
同じ学校の初等部の制服を着ている弟を、清明が迎えに行ったりもしていることを知る級友は、そんなコメントをする。
「ウチの弟、中1だけどかわいくないぜ?なんかあればすぐオヤに告げグチするし、ナマイキだし」
「そんなモンじゃないか?普通。オレも兄貴にそんな感じだし妹もオレにはそんなモンだし」
「前はそんなに一緒に帰るまでしてなかっただろ?」

初等部と高等部は同じ敷地にあっても門は別々だ。
初等部の生徒は高等部には入れないし、高等部の生徒は初等部には入れない。
かつては清明や級友たちも──途中編入があるので全員ではないが──初等部あるいは中等部に通っていた。
高等部の生徒には中等部や初等部は付属校とはいえ母校だが、行き来は禁止されている。
生徒を守る安全を考えた警備上の理由で、たとえ身内であっても、よほどの理由がなければ学校に入れないのだ。

清明は初等部へ帰りに迎えに行ったり、立夏の方が早く帰る時は、立夏が高等部の門で待っていたりする。
しかし、以前はこんな風に頻繁に迎えに行ったり、待っていたりはなかったことを、級友は不思議がる。

立夏が記憶を失くしたことを知るのは、家族である両親と清明。
それから初等部の先生、あとは立夏が通っているカウンセリングの医師だけだ。
事情を知らない級友たちが不思議に思うのもムリのない話だった。

「いくら年が離れてるって言っても過保護もほどほどにしないと」
「いいんだよ。立夏は僕がいないとダメなんだ」
「兄弟そろってブラコンか?あぶねーなー」
笑いながら冗談で言う級友を清明はちらりと横目で視線を向けた。


ブラコン?
違う。
これはブラコンなんかじゃない。
この感情はたかがブラコンという、生易しいものではない。

同じ父母から生まれた血が繋がった実の弟を、誰よりも愛している。

近親相姦──。

5つ違いの弟、立夏に対する劣情はただのブラコンではない。
自分は狂っている…。

級友の言うように「あぶない」と言うのが世間の目だ。
行き過ぎた兄弟愛と見られ、それを危ないというのは家族だから。血が繋がった兄弟だからだろう。

だけど世間的には許されなくても、かまいやしない。

この世に愛せる人間は、立夏しかいないのだから──。


「じゃあ、これで。
発表のことは僕も調べておくよ」
校門が近づき、清明は級友たちに別れを告げると、「ああ」とか「じゃあな」といった返事が返ってくる。
清明は級友たちと別れ、立夏が待つ門へ向かう。

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