花火
自分でバンソウコウを貼る。
そんなことにも、もう慣れた。
一人でも平気だ。
もう庇ってくれる人も、逃げる場所も、傷の手当や大丈夫?と心配してくれる人はいない。
この世のどこにも。

傷の手当をしてから夏休みの宿題を広げる。
清明がいた頃は一緒に遊んでくれたから、夏休みも楽しかった。
清明がいない今は、退屈なだけだ。
母親の機嫌が悪くなると学校があった方がまだ楽しいし、ラクな気もする。
おかげで宿題ばかり捗って仕方がない。

どこかから風鈴の澄んだ音色や花火の音がする。

清明と庭で花火をしたことを思い出す。
一人でやってもつまらないし、ユイコを誘うにしても門限がある。
門限は午後6時。
夏は7時頃まで空が明るいし、昼間に花火をやってもつまらないだろう。

清明がいなくなってから気付いたことは、一人では出来ないことの多さ。
傷は一人で手当出来る。
病院にも一人で行ける。
何だって一人で何とかなるけど、楽しかったことは一人で出来ないことばかりだ。

ピリリ…と不意に携帯が鳴って、立夏は電話に出る。
「もしもし?」
「立夏?今から出て来れる?」
またか、と立夏は小さく息をついて時計を見る。
もうすぐ10時になろうとしているが、わかったと返事をして電話を切る。

「簡単に呼び出すけど抜け出すの大変なんだぞ」
立夏が文句を言うと草灯は「ゴメンね」と謝ってくるが、悪いなんて全然思ってないに違いない。
「どこ行くんだよ」
「どこがいいかな。公園とか」
「公園?」
「コレをやりに行く」
そう言って草灯は手に持っていた大きな袋を見せる。
立夏が中を覗き込むと、中には花火のセットが入っていた。
「花火だ!花火すんの?」
「花火好き?」
「うんっ」
耳をピーンと立てて嬉しそうに答える立夏に草灯も笑顔を見せた。
たまたま立ち寄ったコンビニのレジ前で見つけて、立夏の為に買ったのだ。
公園に着くと早速花火を二人で広げる。
「草灯、火は?火つけて」
立夏はわくわくしているようで、こんな風にはしゃぐ様子など滅多に見たことがないので珍しいのだが、かわいいなと草灯は思う。
ポケットからライターを取り出して、立夏が持っている花火に火をつける。
「危なくないか?ヤケドするなよ」
「大丈夫」
花火に火がつくと立夏は嬉しそうに花火を見る。
「立夏、ヤケドしないように」
注意を聞いているのかいないのか、立夏は花火をくるくると回したり自分が回ったりしている。
「草灯やんないの?」
火が消える前に次々に花火に火を移す立夏は、黙ってベンチに座っている草灯に聞く。
「カメラは?写真撮ってあげるよ」
「本当?バッグの中にあるから、取って撮って」
立夏は肩から下げているいつものバッグを、両手が塞がっているので後ろ向きに草灯に近づいて、中からカメラを出してくれと言う。

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