花形見
「桜、もう咲いてる」
草灯との散歩中に立夏は早咲きの桜を見つけ、近寄る。
春がだんだんと近づいている。
春の訪れを感じるものは沢山あるが、その中でも桜は特別だ。
心なしか立夏の表情も明るい。
「春は好き?」
「うん」
道端に咲く名もわからない小さな花にも、わくわくするような嬉しさを感じる。
「もうコートは重いかな」
立夏には届かない桜の枝に草灯は手を伸ばす。
「満開の桜もいいけど、このくらいの3分咲きくらいがオレは好きかな」
「なんで?」
草灯を見上げて聞くと草灯は柔らかい笑顔で答える。
「つぼみが残ってる方がいい。楽しみがあるでしょ」
「ふぅん?」
首を傾げる立夏の頭を軽く撫でて草灯は笑みを浮かべる。
「完全になる前が好き。未完成なところが。
立夏もね」
にこっと笑う草灯に立夏は視線を反らす。
「なんだそれ。ワケわかんねぇ」
「立夏も成長途中でしょ。将来が楽しみだから」
(そんなものかな)
大人の草灯から見たら、そういうものなんだろうか?
立夏にはよくわからない。

「いつまで草灯とこうやって桜見れるかな」
「ずっとだよ」
そう言って草灯は立夏の手を握る。
何故か立夏は痛みを堪えるような顔をしている。
「立夏?どうしたの」
草灯が聞いても立夏は答えない。
しばらく黙り込んで見上げてくる。
「草灯、好きだよ」
「どうしたの、急に?」
「なんとなく、言いたくなっただけ」
立夏は笑ってみせるが、一瞬見せた翳りはなんだったのだろう?
急にいつまで一緒に桜を見れるのかなんて言うのも、なんだかおかしい。
「嬉しいよ。
でも、どうして?いつもは言ってくれないのに」
少し考え込むように黙り込み、立夏は草灯の方は見ないで話す。
「清明にちゃんと好きって言えなかった。ちゃんと、いるうちに伝えなきゃって思ったから」
立夏は今でも清明を慕い、好きでいる。そのことは草灯も知っている。
立夏が言わなくても清明の話や、その時の表情からも伝わる。
「そうだね」と答えながらも、立夏の言い回しが草灯には気にかかった。
それに気にかかることはもうひとつある。

それは恋愛感情?
聞いてみたいけど聞くのは躊躇われる。
清明を好きな立夏も好きだから、それでいい。

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