Bitter&Sweet
「花火大会?」
「うん…あの、友達と行きたいんだけど…行ってもいいかな」
夕食時、母親の機嫌をみて立夏は切り出した。
今日は母親は機嫌がいい。
「子供だけで行くのは危ないわ」
「大丈夫だよ、大人ついてくから(っていうか、大人と行くんだけど)」

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「花火大会、一緒に行かない?」
草灯の誘いにぴくっとミミを動かしたが、すぐにしゅんと垂れてしまう。
「どうしたの」
「行きたいけど…母さんがいいって言うかな…」
立夏の門限は午後6時。
それ以降の外出は当然、禁止されている。
普通、小学生ならそれが当たり前だが、清明のこともあるので母親は時々神経質になって、遊びに行くのもダメだと言うことがある。
夜に出かけるなんてすんなり許可してくれるとは思えない。
その日の機嫌によっては事前に許可をとっていても、そんなことすっかり忘れてしまう可能性もある。
「ダメって言われたらこっそり抜け出せばいいよ」
草灯は時々、夜に立夏を連れ出すことがある。
「そーゆーのいけないんだぞ。大人のくせに」
「見たいんでしょ?」
「それはそうだけど…」
「オレは立夏と行きたい」
(ズルイな…)
にっこりときれいに笑って「行く?」と聞かれたら、「うん」としか答えようがなかった。

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「保護者がついて行くならいいわ」
笑顔を見せて母親は許可をくれた。それから誰と行くのか聞いてきて、知らない名前をいくつか挙げる。
前の学校の同級生にそんな名前のヤツがいたけど、それは「立夏」の友達で立夏は違う。だけどここはその方が都合がいいので、適当に答えておく。
「そうだ、浴衣着て行ったら?」
「えっ…いいよ(浴衣なんか着かたわかんないし)」
「せっかくなんだもの。ね?」
機嫌のいい母親は食卓から離れ、浴衣を手に戻って来た。
「ほら、やっぱりよく似合ってるわ。立夏に似合うと思って縫ったのよ」
(そうなんだ)
立つように促され、肩に紺色の浴衣を掛けて言う母親に立夏はちくっと胸が痛んだ。
「立夏」のために母親が自分で縫ったという浴衣を自分が着てもいいものか迷う。
「でも…」
「なに?」
「…なんでもない。カレンダーに書いておくから、忘れないで」
花火大会当日、立夏は夕食を軽く済ませてざっとシャワーで汗を流した後、母親に浴衣を着せてもらった。
約束の時間に合わせて早めに家を出る時、あまり遅くならないように、同行する保護者に迷惑をかけないように、迷子にならないように母親に注意された。
なんとなく、それが嬉しかった。

待ち合わせの公園に着くと相手はすでに来ていてベンチに座りタバコを吸っている。
「待った?」
「いや、そんなに待ってないよ。浴衣か。風流だね」
「母さんがどうしてもって言うから…」
「よく似合ってるよ。かわいい」
ミミを少し横にして立夏は頬を赤くする。
照れている立夏にくすっと笑って立ち上がり、短くなったタバコを投げ捨て、踏み消す。
「行こうか」

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