結ぶ
印象はまず、「柔らかい」だった。
サラサラと指から零れ落ちる髪をブラシでまとめようとすると、別なところの髪が緩んでまた指から零れる。
「まだ?」
頭を動かす草灯に立夏は「あっ」と声を上げる。
「動くなよっ」
「はーい」
いいコな返事をして草灯はまっすぐ向き直す。
髪を結ぼうとしていた草灯は怪我のせいで左腕を上げると痛み、それを見ていた立夏に草灯が髪を結んでとお願いをした。
結ぶくらいなら…と思い、簡単にふたつ返事でOKした立夏だが、これがやってみると難しい。
床に座る草灯の後ろに膝立ちになって、立夏は草灯の髪を結ぼうとひとつにまとめようとしているのだが、左をきちんとしようとすると右が緩み、右をきちんとしようとすると左が緩む。
左右がちゃんとなったかと思えば後頭部が緩んでしまう。
あまり強く引っ張ったら痛いだろうし、加減もわからない。
髪を結ぶなんて実はやったことがない立夏は苦戦する。
草灯の髪は柔らかくてサラサラしていて、触り心地がいいけど結ぶのは難しい。

掴んだと思えば零れ落ちる。
掴んだつもりでも掴みきれない。
まるで草灯本人、そのもののようだ。

苦戦すること10分、ようやくなんとかまとまってきた。
「立夏ぁ、まだー?」
「!!動くなって言ったろ!(せっかく結べそうだったのに〜)」
「だってもう10分経ってるよ」
「今度動いたらみつあみにするからなっ」
「それはイヤ」
答えながら鏡を置いておくべきだったと草灯はクスクス笑いながら思う。
鏡を見たいのは自分の髪型がどうなっているか気になるわけではなく、一生懸命に髪を結ぼうとしてくれている立夏を見たいからだ。
「三つ編みにするぞ」なんて脅しをかけられたが、ひとつ結びにすら苦戦している立夏が三つ編みなんて出来るんだろうか?
「立夏って不器用だよね…」
ぼそっと言う草灯に立夏はぴくっと反応する。
「なんか言ったか?」
草灯の髪を掴んだまま、背後から草灯の顔を覗き込む。
「なんでもありません」
草灯はクスクス笑う。
いつも草灯は自分で手早く結んでいるので、簡単そうに見えたけれど人の髪を結ぶのが、こんなに難しいと思わなかった。
「これでいい?」
苦心したが、ようやく何とか結び終えて聞いてみる。
「ウン。ありがと」
手できちんとまとまっていることを確認して、草灯が振り向いて礼を言うと、立夏はしっぽを左右に振る。
「髪結ぶのなんか、簡単だと思ったけど難しいな」
草灯の髪は触り心地はいいけれど、正直慣れないことをしてとても疲れた立夏は、椅子に座ってフー、と息をつく。
「立夏に髪触られるの、気持ちよかったな。またお願いしようかな」
「そう?(かな……)」
「ウン。お礼においしいもの作るからね」
そう言いながら草灯はエプロンを腰に巻いて結ぶと、くしゃりと立夏の頭を撫でた。
キッチンに立つ大きな背中を見ながら、大きな手が撫でてくれた頭を立夏は自分で触って「そっか」と小さく呟く。
「何か言った?」
肩越しに振り向く草灯に立夏は軽く首を振って、何でもないと答える。

髪を触ったりされて気持ちがいいのは、相手のことが好きだから。
頭を撫でられて嬉しくなるのと同じかも知れない。
好きじゃない相手だったら、やっぱり触られるのもイヤだったりするだろうから。
嬉しいのはそういう些細なこと。
他人と区別や差別をするような一等特別な扱いではなく、こういう普通のことで嬉しいと思うことの方がいいな、と立夏は思った。

〜END〜

LOVELESS祭のコラボレーション投稿見本として書いた作品です〜
元は【IMP】のまめたんのイラストです
元々、まめたんの日記に描いてあったイラストだったんですが、かわいくてお話書きたい〜って言っていたのです
後日、まめたんのそのイラストをリクされた方にビックリ
そんなわけで、このお話はまめたんとAさんへ捧げますvv
投稿見本のものは祭サイトにアップしますが、これは加筆修正しています☆
初出:2006.1.6
再録:2006.3.1

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