シアワセな予感
「こんばんは」
窓が開き聞こえてきた声に立夏のカタチのいい獣ミミがぴくりと反応する。
2階の窓から出入りするその男を、立夏は宿題をしていた手を止め、ふー…と息をつきながら振り返る。
が、振り向いたところで立夏は目を丸くさせる。

「なに、それ?」
草灯はピンクのチューリップの花束を持っていた。
立夏が聞くと草灯はにっこりときれいに笑って、花束を手に立夏に近づく。
「立夏にあげるために買って来たんだ」
草灯の言葉に立夏はミミをピクピクと動かす。
「オレに…?」
立夏は2〜3度、目をぱちぱちと瞬きさせる。
「立夏に似合うかなと思って」
「…今日って、何かの記念日だっけ?」
花束を贈るのは、誕生日や何かの記念日にお祝いで渡すことが多いので、立夏は今日が何か特別な日なのかと聞いてみると、草灯はくすっと笑う。
「べつに何も?ただ、花屋で見てかわいかったから。立夏に似合いそうだなって思って、あげたくなっただけ」
そう言って「はい」と草灯は立夏に花束を渡す。
「ああ…でも、今日は立夏と出会ってからちょうど1ヵ月だね」
立夏の机に置いてあるカレンダーの日付けを見て、草灯が言う。

ただ、あげたくなっただけだったが、奇しくも今日は二人が出会ってから、ちょうど1ヵ月目だったと草灯は言う。
(本当かな…)
受け取ったチューリップの花束を見ながら立夏は思う。
本当に偶然、出会って1ヵ月目の今日、ただあげたくなっただけなのか。
それとも、偶然を装っているのか。
でも……。

床に座る草灯は立夏の手を取り、促すようにそっと手を引く。
導かれるように立夏は座っていた椅子から降りて、花束を手にしたまま同じく床に座る。
「チューリップの花言葉、知ってる?」
「知らない」
首を横に振る立夏に草灯はやわらかい笑みを浮かべて言う。
「そのチューリップの花言葉はね、『愛の告白』なんだよ」
草灯のセリフに立夏は少し頬を染める。
(また、そーゆーことを…)

まだ小学生の立夏に8つも年上の草灯はさらりと言う。
キザだと思うものの、草灯が言うとサマになる。
だけど立夏にとっては、まだ小学生の自分にはこんな花束を渡しての告白なんて、不釣り合いに思ってしまう。
嬉しいと思う気持ちと、戸惑いで立夏はどう返事をしていいかわからない。

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