思い出づくり
「紅葉見に行かない?」
「どこに」
ぱちぱちと瞬きをする立夏に草灯はにっこりと笑う。
「それはお楽しみ」
「あ、オレ泊まりとかダメだからな」
「残念。立夏こそ、前みたいに色んな人呼ばないようにね。はぐれたり探したり大変だから」
いつぞやの甲府へ行った時のことを草灯は言う。
が、立夏はミミを伏せて唇を尖らせる。
「あれは…おまえこそ1人で勝手に行っちゃったんじゃないか。オレだってあんな大人数になるとは…」
「行く?行かない?」
ブツブツ言う立夏に草灯が聞いてみると、ミミをぴーんと立てて立夏は「行く!」と大きな声で答えた。


「わ、あー…」
今年は暖かくて12月の今も紅葉が見ごろだと言われている。
赤や黄色の木々が綺麗だ。
立夏は目をキラキラさせながらしっぽを振って、早速とばかりにカメラを取り出す。
「草灯、そっち立てよ!」
草灯はくすっと笑って言われた通り、立夏が指差す場所に立つと、立夏の思い出作りと称した記念写真の撮影が始まった。
「立夏も撮ってあげるよ」
「うん!」
草灯が手を差し出すと立夏は手を乗せてきて、草灯は僅かに目を瞠る。
「…カメラ、渡してっていうつもりだったんだけど」
「えっ?あっ…!」
立夏はさっと手を引いて後ろに手を引っ込めて俯き、ミミを寝かせて頬を赤くしてしまう。
カメラを渡してもらおうと差し伸べた手に、手を乗せてしまったのは、てっきり手をつなぐのかと思ってしまい、勘違いをしたことに立夏は恥ずかしくなった。
そんな様子の立夏を、かわいいなぁと思うと草灯は自然と唇を重ねていた。
「っ…草灯!」
何度もキスしているのに立夏は顔を赤くしてミミを伏せ、しっぽを膨らませる。
不意打ちのキスを誰かに見られたんじゃないかと、キョロキョロと視線を泳がせる立夏が恥ずかしがりで照れ屋なのは知っているが、もう慣れてもよさそうなものなのにと草灯は思ってしまう。
だが、立夏のそんな初々しい反応も草灯はたまらなく好きなのだ。
「立夏がかわいいからいけないんだよ」
「…なんだそれ……(ヘンな言い訳。ヘンなヤツ)」
ぷぅーっと頬を膨らませる仔猫に草灯はくすっと笑う。
「あっちも綺麗だから見に行こうよ」
草灯はそう言って先を指差す。
立夏は恥ずかしさと照れで頬を赤くしたまま、こくんと無言で頷く。
歩き出すと、大きな手に手を握られた。
「………」
握られた手をじっと見つめる立夏に草灯は言う。
「オレが手を握りたいから。いいでしょ?」
「…いいけど」
勘違いをして恥ずかしいと思っていたが、草灯はそんな自分を気遣ってくれているんだろうと立夏は感じて、きゅっと手を握り返した。


「立夏、冷めちゃうよ」
道の途中にあった甘味処に入り、注文したおしるこが来ても、立夏はデジカメをいじって撮った写真を眺めていたが、草灯に言われてデジカメを空いている椅子に置き、おしるこを食べる。
「あ、これ栗が入ってる」
「立夏は栗好きだったね。じゃあオレのもあげるよ」
そう言って草灯は自分の器から木製のスプーンですくった栗を立夏の器に入れる。
まだ紅葉が見れるとはいっても日に日に寒くなる今日この頃、外で冷えた体に暖かいおしるこが気持ちをほっこりと暖かくする。
「立夏、ついてるよ」
「ン」
立夏の口の端についたおしるこを草灯は指で拭うと、その指をちゅっと舐めた。
するとサッと立夏が紙ナプキンを差し出してくる。
「これで拭けよ」
草灯が差し出された紙ナプキンを受け取ると、立夏も紙ナプキンで口をごしごし拭く。その顔は少し赤くなっていて、どうやら照れているようだ。
子供なんだから、気にすることないのにと草灯はつい笑ってしまう。
「…なに笑ってんだよ?」
草灯の小さな笑いに気づいた立夏はむっとしたような表情で聞いてくる。
「何でもないよ」
草灯が答えるとむーっと眉を寄せるのは、立夏は隠し事が嫌いで内緒ごとや秘密も好きじゃないからなのだろう。

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