好きなところ
好きなところは沢山ある。
感情を素直に表現するミミやしっぽ。
意志の強さを表すかのような光が強い大きな瞳。
意地っ張りで照れ屋で恥ずがりなところ。
声や些細な仕草も。
挙げるとキリがない。

年のわりには大人びているけれど、フルーツパフェを食べながら、唇の端にクリームをつけているところなんかも、たまらなくかわいくて好きだ。

「なんだよ?」
意味もなくクスクス笑う草灯に立夏は怪訝な顔で聞く。
「ついてるよ」
言いながら手を伸ばして立夏の唇の端についているクリームを、草灯は指で拭うと舐める。
「それで?」
「え?」
「プールの話。さっきの続き」
草灯が話の続きを促すと立夏はミミをぴょこっと立て、話を続ける。
「そう、がんばったら班ごとに点数もらって棒グラフつけてんだけど、ユイコが泳げなくてさ」
「立夏は泳げるの?」
「うん。わりと得意、かな?だから夏休み中、特訓しようってなって今練習してるんだけど…」

立夏のクラスでは協調性を養うために、班ごとにみんなが協力しあって得意なことを伸ばし、不得意なことを克服する運動をしている。
この夏休み中にユイコが泳げるようになれば、夏休み明けのテストで点が貰えるはずだ。
立夏は泳げないユイコのためにあれこれと、特訓の方法を考えていると話す。

友達思いで、優しいところも好きだ。

「草灯?聞いてるか?」
「聞いてるよ」
「ふぅん…なんか今日、ヘンだぞ」
テーブルに頬杖をつく草灯に立夏は首を傾げる。
「そうかな。どんな風に?」
「どんなって……。ヘンなのはいつもか…」
立夏は柄の長いスプーンでパフェをすくいながら独り言のように言うと、草灯は「ひどいなぁ」と笑う。
「立夏が泳ぐところ、見てみたいな」
「学校は父兄以外、出入り禁止だから」
「残念。じゃあ海とかプールに行こうよ」
「オレ海で泳いだことない」
興味を持ったのか立夏は少し身を乗り出してミミをピーンと立てている。
くるくるとよく変わる表情も愛らしい。
そんな立夏の様子を見ているだけでも、草灯は飽きない。

時々、ひどく脆くて崩れそうなのに、立夏は強い。
だけどこんな風に年相応のかわいいところもあるところが、いいなと草灯は思う。
好きだなと思う。

「あ」
パーラーを出てから駅の中を歩いていると、ふと立夏は何かに気付いて小さく声をあげる。
「どうしたの」
草灯が声をかけると立夏は無言でホームへ上がる階段の下で立ち止まっている老婦人に駆け寄り、何か声をかけている。
草灯が追いつくと、立夏は草灯に言う。
「草灯、荷物持ってやって」
立夏の言うとおり草灯が老婦人の荷物を持ち上げると、立夏は老婦人の手を引いて階段を登る。


老婦人が電車に乗るのを見送って2人で歩きながら草灯が言う。
「立夏は偉いね」
「なにが?」
「これだけ人がいるのに助けようとしたの、立夏だけでしょ」

駅構内には老若男女、様々な人が歩いている。
だけど老婦人が沢山の荷物を抱えて階段を登るのに苦労していることに気づいて手助けしようとしたのは、立夏だけだった。
こういうことはよくあることで、誰もがみんな自分以外の人間には無関心で、気づいていても見て見ぬふりをして通り過ぎてしまったりする。
物騒な世の中、親切を疑う人だっているくらいだ。

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