April Fool
「何か用?」
立夏の部屋に入った途端、冷たい言葉が投げかけられる。
素っ気無いのはいつものことで喜んで招き入れられることは皆無に等しいが、口調も刺々しくて表情も態度も不機嫌さを全開で示し、今日はいつも以上にご機嫌斜めらしい。
立夏の機嫌が悪いこと自体は珍しいことではないので、草灯は気にせず床に座る。
「今日はご機嫌斜め?」
草灯が言うと立夏は何かを疑うような視線を向けてくる。
「おまえも騙しに来たのか?」
「騙す?」
一体何のことなのかと思いながら、草灯は気づいたことを口にする。
「おまえ“も”って何?」
立夏の口ぶりでは、すでに誰かに騙された後だと受け取れる。
立夏は機嫌悪そうにむすっとしたまま話した。


* * *


学校が春休みで立夏は午後を図書館で過ごした。
帰る途中、ユイコからの電話で用事があると呼び出され、立夏は公園に向かうとユイコは先に来ていて、ブランコに座っているユイコは、遠目から見てもいつもとは様子が違って見えた。
「ユイコ、どうした?」
いつも元気なユイコがしょんぼりとした様子で、立夏は空いている隣のブランコに座って話しかけてみる。
「あのね…わたし、転校することになったんだ…」
「えっ…」
「お父さんが転勤になったって…」
そう言ってユイコはポロポロと涙をこぼす。

今はもう春休みで転校する者は3学期の終業式前にお別れ会をやったばかりで、今になって転校するというのは本当に急な話だ。
立夏の場合は事情がそうそうあることではなかったので違うけれど、転校するのはたいてい親の仕事の転勤だとか、離婚だとか家族の都合が多い。
家族の都合で引越さなければならないとなれば、いくら自分たちがイヤだと言ったところで意見が通ることはあるわけもない。
急に決まったということは、クラスのみんなにお別れを言うことも出来ないまま、ユイコは引っ越すことになる。
きちんと挨拶をすることが出来ないまま転校しなくちゃいけないということは、立夏が転校した時もそうだったのでよくわかる。

「そっか…。でも離れたって友達は友達だし。遠くても電話とかメールとか出来るし」
立夏はそう言うが、ユイコがいなくなるということはとても寂しいことだと思う。
ユイコは転校して初めて出来た友達で、色んなことをユイコに教えてもらったり、教えてあげたり、立夏にとってユイコはかけがえのない大切な存在だ。
転校した先でユイコがうまくやっていけるのかも心配になる。
立夏もミミを下げて寂しくなると思っていると、ユイコがクスクス笑い始めた。
「ごめんね、今のウソ!」
「………は…?」
ユイコはけろりと笑って言い、立夏はぽかんとしてしまう。
「お父さんが転勤とか転校とか、全部ウソ。今日はエイプリルフールでしょ?」
「なっ……!?」
「ごめんね?信じた?」
すぐに理解出来なかった立夏も、ようやく状況が飲み込めて勢いよく立ち上がる。
「いくらエイプリルフールだって言っても、ついていいウソとダメなことってあるだろ」
本気で立夏はユイコがいなくなることを悲しいと思い、心配もした。なのにそれが嘘だとわかって立夏は憤る。
「オレは嘘つく奴キライ」
そう言い残して立夏はユイコを残し、スタスタと足早に立ち去る。
背後でユイコが「立夏くん!ごめんね…!」と大きな声で謝っていたが、立夏は一度も立ち止まらず、振り向かないまま立ち去る。

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