Happy Christmas
クリスマス──。
クリスマスは家族と…小学生なら当たり前だ。
青柳家ではツリーは飾らない。
それどころかケーキもごちそうも今年はなさそうだ。

兄がいなくなってから、この家はどこか世間とは切り離されてしまったようだ。
家族が欠けてしまったのにクリスマスを楽しく過ごすなんて、非常識だとも言える。
そう、だからべつにツリーがなくても、ごちそうもケーキもなくったって寂しくなんてない。


今日は12月25日。
ただの、普通の、いつもと変わらない1日だ。
今日で学校は終わり。
明日からは冬休みに入る。
通知表をもらって午前中に帰宅した立夏は特別やることもなく、一人で図書館に行って本を借りて来た。
冬休みは休みの期間が夏よりも短い。
旅行に行く予定もないし、家にいても退屈なのだから学校に行ってる方がまだマシのように立夏は思う。
やることといえば宿題くらいしかない。
時間はたっぷりあるのだから、本を読むのは暇潰しでもあり実益を兼ねて、だ。

晩ご飯を食べて一度部屋に戻る。
フロに入って読みかけの本を読んで、それから──。
机の上に置いていた携帯が、着信があったことを示すライトが点滅していて、立夏はどきっとする。
携帯を開いてみると、メール受信、相手はユイコだった。
『メリークリスマス』と書かれたメールは絵文字が沢山使われていて、ユイコらしいなと立夏は笑ってしまう。
ベッドに寝転がって立夏はユイコと弥生、それからオサムにメールを送って携帯を閉じた。

「………」
閉じた携帯をじっと立夏は眺める。
4日前、誕生日に会ってから草灯とは会っていない。
電話もメールもない。
誕生日に会った時にも少し疲れていたように見えた。
大学というところがどんなところなのかわからないけど、時々草灯は課題にかかりっきりになっていたと言うことがある。
(大学って冬休みないのかな)
立夏が夏休みの間にも休みは何日かあったようだが、学校に行っていることもあった。
小学生の立夏には大学という学校の授業や休みはまるでわからない。
忙しいのだろうか?
状況がわからないのに頑張れなんて励ますのもおかしいけど、今日はクリスマスだから。
そう思って立夏は携帯を開く。

『メリークリスマス』と打った後の文章を何を書いていいかわからない。
どうしようか?と考える。
『元気か?』と聞くのも何だかおかしい気がする。4日前に会ったばかりだ。
4日会っていない。
微妙な期間だなと思う。
携帯のメール画面の、カーソルの点滅を見つめたまま立夏は何を書くか考えていると、カタン…と外で音がした。
「………」
起き上がったところでカラカラ…と窓が開く。
途端に冷たい冬の夜風がひやりと入り込み、立夏はどきんと心臓が跳ね上がった。
カーテンを避けて姿を見せた長躯はにっこりと笑う。
「メリークリスマス。立夏」
草灯は何やら沢山荷物を持って来た。
抱えられる大きさのクリスマスツリーを手にしていて、立夏はぼーっとしてしまう。
手にしていたツリーを床に置くと草灯はコートのポケットからズルズルとツリーを飾る電飾のコードを出してツリーに適当に巻きつけると、勝手にコンセントを差した。
真っ白なツリーには金色のリボンと薄いブルーのファーが掛けられ、キラキラとラメが光る雪の結晶の飾りがいくつか下がっていて、そこにブルーの光が灯った。
「キレイでしょ?」
「…きれい。だけど…」
なんなんだ?と思いながら立夏は草灯が持って来たツリーを見つめる。

突然やって来てツリーを飾って、一体何なのだろう?
相変わらずよくわからないヤツだ。

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