大人になる方法
「本当に願い事、ないの?」
雨上がりの匂いがする夕暮れに染まる街を手をつないで歩きながら、草灯は立夏に問う。
「そりゃ、あるけど…。願っても叶わないことってあるだろ」
「立夏は色々な可能性を持ってる。自由を持ってる。諦めてしまうには早いよ」

立夏くらいの年齢なら夢や希望に満ち溢れている方が普通だ。
成長するにつれて段々と出来ること、出来ないことが増えていく。
大人になると「現実」という言葉で諦めることを覚えてしまう。
他にもどうにも出来ない理由で諦めなければいけないこともある。
たとえば優れた能力を持っていても、体を壊してしまう人。
やりたいことがあっても生まれつき、体が弱いとか不自由を抱えている人。
勉強したくても金銭的な理由から進学出来ない人。
夢や希望を叶えたくても、様々な理由や事情から諦めざるを得ない人の方がこの世には沢山いる。
夢を諦めてしまった人たちも子供の頃には、色々な可能性に胸を膨らませていたはずなのに、現実という壁の前に足掻くことも出来ずに諦めなければいけなかったり、あるいは足掻くことすら諦めてしまった人が多い。
誰もが皆、願って夢や希望が叶うわけではない。
生まれついた体や家、育った環境、不遇や不運。
立夏の言う通り願っても叶わないことはある。
だけど、まだ小学生の立夏は諦めてしまうのには早いと草灯は思う。

(知らないから……)
草灯は知らない。
2年前、立夏は記憶をなくしたことを。
大人になれないかも知れない。
夢や希望を叶えたくても、叶えられないかも知れない。
諦めるというよりは夢を持つことがなかった。
考えたことがなかったのだ。
この手で、何かつかめるのだろうか?
可能性。
自由。
希望、夢。
わくわくするような不安なような感じがする言葉。
いい言葉のはずなのに、立夏には寂しく感じる。
自分にはないものだと思い込んでいたから。

「立夏はなりたいものとかないの?」
草灯に聞かれて立夏は少し考える。
笹に吊るされた皆の将来の夢や希望。
立夏はどうしても何も思いつかなかった。
「オレは…早く大人になりたい」
歩く自分の足元を眺めながら立夏は答えた。
草灯が聞いたのはそういう意味ではないことはわかっているが、紛れもない本心だ。
「オレが大人にしてあげようか?」
立夏は隣を歩く草灯を怪訝な顔で見上げる。
「そんなのムリに決まってるだろ」
「出来るよ。立夏が本当になりたいなら、オレが叶えてあげる」
どうやって?と立夏は無言で草灯に視線で問い掛ける。
草灯は意味ありげに笑いながら、立夏のミミをつまむ。
草灯の言っている意味がわからなかった立夏だが、はっと気付いて頬を赤くし、しっぽを膨らませる。

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