NEW YEAR
「初日の出見に行かない?」

クリスマスが終わると一気に街中は大晦日や正月一色だ。
草灯も今日でやっと冬休みに入った、年末。
草灯はいつものように夜に立夏の部屋を訪れた。

立夏を誘ってみると、ミミをぴょんとたてて、しっぽをパタパタと振って「行きたい!」と答える。
「オレ、初日の出見たことないんだ」
子供特有の好奇心の強さで、立夏は目をきらきらさせている。
年の割には立夏は大人びているが、こういう無邪気なところは年相応らしくて、かわいいなと思いながら草灯は言う。
「日本で一番最初に初日の出が見れる場所に行こうか」
「それ、どこ?」
「千葉の銚子だよ」
「千葉…」
立夏は社会科の授業で使う地図を出して、千葉県を探す。
「ついでと言っては何だけど、大晦日の予定は?」
「べつに…何もないけど」
「0時を迎える瞬間に、立夏と一緒にいたいな」
新しい年を一緒に迎えたいと言う草灯に、立夏はしっぽをふらりと揺らす。
「いいよ…?」
「よかった」
にっこり笑う草灯に立夏も嬉しくなる。

大晦日の夜に家を開けるなんて、どうやって許可を取ろうかと立夏は悩んだ。
小学生が大晦日に「友達の家に」なんて、普通はない。
みんな家族と過ごすのに他人を呼ぶ家なんて、小学生同士ではそうそうない。というよりも、まったくないと言った方が正しい。
まさか大人と、なんて言えないし、関係を問われたら説明出来ない。かえって心配されるだろう。
大晦日や正月はさすがに父親も会社が休みで家にいるのだ。
まさか両親は小学生の息子に、ハタチの大人な恋人がいるなんて、思いもしないだろう。
元旦に初日の出を見に連れて行って貰うから、早朝に出掛けることを伝えた。
その許可はもらえたので、こっそり夜中に抜け出すという作戦だ。

12月31日、夜20時過ぎ。
立夏は夕食の後にフロに入り、二階の自室に戻る。
今日は母親の機嫌もよくて、リビングに居ないのかと珍しく引き留められた。
少し罪悪感めいた気持ちに苛まれたが、機嫌がよくても何がきっかけで母親が暴れ出すか、わからない。
明日の朝は友達と初日の出を見に行くと伝えてあるので、早く寝ると言って立夏は言い訳をした。
両親に隠し事をしていることには、後ろめたさがある。

タオルで濡れた髪を拭く立夏は、いつもならフロ上がりには後は寝るだけなのでパジャマ姿だが、今日はこれから草灯が迎えに来る。
出掛ける用意をしていると窓をノックする音にミミをぴんと立てて、カーテンと窓を開ける。
「父さんいるから静かにな」
口に人差し指を立てて言うと、立夏はコートを着ていつものバッグを肩から下げる。
「用意出来た?」
「うん。どうやって降りるんだ?」
部屋の明かりを消して立夏はひそひそ話す。
草灯は立夏をベランダに促し、背中を向けてしゃがむ。
「乗って?」
立夏は遠慮がちにそっと草灯の背中にくっつくと、肩に手を置く。
「しっかりつかまってて」
立夏は草灯の肩に後ろから腕を回して抱きつき、草灯が立ち上がるとおんぶの状態になる。
そのまま草灯は立夏を落とさないように気をつけながら、ベランダの柵を乗り越えて慎重に降りる。
怖さから立夏はぎゅっと強く草灯にしがみつく。
「立夏、首締めないで…」
「あ、ごめ…」
それでも強く抱きついたままの立夏を背に、草灯は2階のベランダから降りる。
「いつもこんな風にしてんのか」
「そう。じゃ、行こうか」

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