White Xmas
「立夏、クリスマスの予定は?」
クリスマスを2週間後に控え、草灯が聞いてきた。
ユイコも弥生さんも、みんなクリスマスは家族と過ごすと立夏は聞いていた。
この頃、クラスでも話題はクリスマスの過ごし方やプレゼントに何を買ってもらうか、といった話が多い。
普通の家庭なら、そうなんだろうなと立夏は思う。

青柳家では父親は家庭のことから目を背けるようにしている。
母親は時々、正気を失う。
兄の清明がいた頃はもう少しマシだったが……。

去年までは、清明がいたから。

今年はきっと普段と変わらない日のように終わるのだろうと思っていた。
クリスマスだとか、思わなければべつにどうということもない。
そう、思っていた。

「べつに予定はないけど…」
ミミをぴくぴくと細かく動かしながら立夏は読んでいた本から視線を外さずに答える。
「じゃあ、雪見に行かない?一緒に」
イスに座って本を読んでいる──フリをしている──立夏に、草灯が言うと、立夏はピクッとミミを動かして振り向く。
「雪?」
「そう、雪」
興味を示した立夏に草灯はにっこりと笑って答える。

2年間の記憶しか持たない立夏は当然、雪遊びなんてしたことがない。
寒い日は東京でも雪が降ることはあるが、積もることなど滅多にはないし、立夏の記憶にある限りは雪が積もった景色というのはテレビニュースで見るくらいで、実際に見たことはない。

「写真、いっぱい撮れるよ。冬休みの思い出、作るんでしょう?」
断る理由もないので、立夏は草灯の誘いにOKした。

その話を聞くまでは正直、冬休みなんてなくてもいいのにな、なんて思っていた。
学校に行っていた方がまだラクだったり、楽しいと思う。
クリスマスなんてみんな浮かれてるのを冷めた目で見ていた。

でもそれは、すべて寂しさからだ。
草灯と約束をして立夏はクリスマスが楽しみになった。

終業式が終わって下校途中、ユイコが溜め息をつく。
「通知表、見せるの気が重いなー。立夏くんはどうだった?」
「べつに。オレ、成績いいもん」
長いしっぽを揺らしながら、立夏は平然と答える。
立夏の通知表はオール5、すべて「最良」だ。
ユイコは自信のある立夏の言葉に「すごーい!」と言う。
普通なら、この成績は自慢すべきところであり、当然親に褒められる成績だ。
しかし、立夏の両親は通知表など一切見ないので、立夏にとってはどうでもいいことに思っている。

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