※この話はコミックス7巻迄の未収録のネタバレを含みます
コミックス派でネタバレがイヤな方はスクロールせずに戻って下さい



本能
我妻草灯、6才。
両親を事故で亡くして間もない彼が、両親がもう目を覚ますことはないのだと理解出来ぬまま、見知らぬ大人に連れられて行った先は半寮生の学校。
草灯はその学校の校長である南律に引き取られた。


ミミを下げてしくしくと泣く子供を前に、律はうんざりした表情で腕を組んでその子供を見下ろす。
「おうちに帰りたい…」
「家?おまえの家などないよ。おまえの父親も母親も死んだ。もう二度と取り戻せない。まだわからないのか。頭が悪い子だな」
律はたった6才の子供に冷徹に言い放つ。


6才の草灯にとって、『死』を正しく理解することが出来ず、まして両親がもういないということ――二度と声を聞くことも抱きしめてくれるぬくもりを感じることも、笑顔をみることも適わないのだということは、受け入れられることではなかった。
そんな幼い子供にも律は容赦なく冷たくするのは、草灯の母親のことがあるからだ。
この子供の母親があの女でなければ、違う教師に預けていただろうし、ここまで残酷な気持ちにもならないだろう。

気の合わない嫌いな女の子供。
草灯を傷つけることで律はあの女へ嫌がらせをしようと考えていた。


「とにかくもうおまえはここより他に行く場所はないんだ。諦めるんだな。
まったく、おまえの母親ときたら死んだのはいいとして、どういう育て方をしていたんだ?めそめそ泣いてばかりでロクに挨拶も出来ないとはね」
泣きじゃくってばかりいた子供は、母親の悪口を言っていることは理解したようで、泣きはらした目でキッときつい目つきで睨みつけてきた。
睨むほどの気力はまだあるらしい。
だが律はそんな草灯を鼻で笑いおかっぱ頭を小突く。
「恨むのなら私ではなく自分の母親を恨むんだな。そう、母親が死ななければおまえはこんな風に言われることもなかったのだろうからね。
何度も同じことを言うつもりはないから、一度だけ言う。よく聞きなさい」
そう言って律は睨みつけてくる子供の前にしゃがんで目線を合わせて口を開く。
「人間は死んでしまったらそれで終わりだ。心臓が止まって血液の流れが止まれば体温は失われ、固く冷たくなっていく。それが人間の死だ。キミもさっき固く冷たくなった両親に触ってわかっただろう?ああなってしまえば、話すことも触れることも出来なくなる。あるのは過去ばかりで明日はない。死ぬというのはそういうことだ。
私はあの女は嫌いだし君を育てる義理もない。だが君を戦闘機として教育をする。キミは過去がどうであれ、これから生きるためにはここで戦闘機として強くなるしかない」
「せんとうき…?」
幼い声が理解不能な聞いたことのない言葉を聞き返す。
「いずれ、君もサクリファイスを持つ。君が守るべき主人だ。君が生きる理由はサクリファイスを守り、戦うこと。その為に強くなりなさい。それが君が生きる理由だ」
知らない単語ばかりを話す大人に草灯は涙で濡れた睫毛をしきりに瞬きする。

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