fake
さっきから視線を受けている。
無言で、ずっと。


この屋敷の主であるチヤ子は今日は友人たちと、演劇鑑賞と食事に出かけていて、今日の外出は別のボディガードがついていて、中平は留守番だ。
中平は観葉植物の葉を一枚一枚、乾いた布で丁寧に拭いて手入れをする。
それをじっと見ている人物がいる。
ものを言わない植物の手入れなどしてムダだとか、そう思っているのだろうか?


「なんだ。何か言いたいことでもあるのか?」
優雅にソファに座っている人物からの視線がさすがに落ち着かず、中平は聞いてみる。
相手はソファの肘掛に頬杖をついたまま、にっこりと笑みを向けてくる。

「中平さんて、立夏と似てるなぁと思って」
「リツカ?おまえの彼女か?」
初めて聞く名前に聞いてみると清明はふっと笑う。
「立夏は男の子だよ。僕の弟」
「へぇ。弟がいるのか」
『リツカ』という名前にてっきり女の子かと思った。
清明も17歳だというから、彼女くらいいても不思議ではないと思ったのだ。
珍しい名前だと中平は思う。
「ここに来てからずっと会っていないから。どうしてるかな…」
「………」

ようやく視線を他の場所に移して溜め息混じりに話す清明が、中平には少し意外に見えた。
嘘を言っているようには見えない。
表情や言葉は、本当に弟の心配をしているのだと思えた。

今度は清明が中平の視線に気づく。
「なにか?」
「いや…。アンタでもそんな顔、するんだなと思って。弟…家族のことはやっぱり心配なのか」
「それは、ね。たった一人の弟だから」
言いながら清明は座り直す。


そんなに長く一緒にいるわけではないし、よく知らない。
青柳清明という人物は得体の知れないところが多い。
始終、笑みを浮かべてはいるが、いつも笑っているからといって『いい人』とは限らない。
行儀がいい男だけれど、何を考えているかさっぱりわからない。
どこか食えない人物だと中平は思っている。
他人のことに興味がなさそうなのに、家族のことを心配するなんて少し意外だ。
だけど、家族を心配するところは、なんとなく少し清明を人間らしい、と初めて感じた瞬間だった。


「なんか、すごい人間らしくて意外だな」
思ったままを正直に言う中平に清明は軽く苦笑する。
「ひどいな。僕のことを何だと思ってるんですか」

二世もそうだが、気分を隠さず、ずけずけと言いたいことを言うタイプの中平には嘘がない。
家族の中でも学校でも、一点の曇りもない人物で居続けた清明を、怪しむ中平の態度はかえって小気味がいい。
だから清明は中平のことは、好感が持てると思っている。

「弟と似てるって、どこが?」
清明が初めて自分のことを話したことに興味を持って、中平が聞いてみると、清明は立夏という弟の話をし始める。
「立夏はマジメで暴力が嫌いで優しいんだ。いい子だよ」
「へぇ…」


弟のことは本当に好きなんだな、とわかる口ぶりだ。
だけど中平はなんとなく、清明が話す弟の話は「似てる」と言われたせいか聞いていて、まるで自分が褒められているような気がして、気恥ずかしいような気分になる。
もちろん、清明は弟の話をしているのであって、自分を褒めているつもりはないだろう。

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