おまじない
「タバコいつから吸ってんだ?」
草灯がタバコを吸うのを見て立夏は何となく聞いてみる。
「20才から」
にっこりと笑って答える草灯に立夏は「嘘くさい…」と眉を寄せる。
『タバコは20才から』というのが決まりだ。
だからだろう。
「信用ないなー」
「おまえいくつだよ?ハタチじゃなかったっけ?」
椅子に正座してテーブルに両腕を乗せて立夏は言う。
草灯は今20才で、もうすぐ誕生日を迎える。
1年前から吸い始めたようには思えない。
「なんで嘘だと思うの」
「おまえ、どっか世間離れしてるもん」
立夏が言うと草灯はひどいなと言って笑いながら短くなったタバコを灰皿に押しつけて火を消す。

草灯には常識だとかルールだとか関係がないように見える。
だいたい、出会ったその日にキスしたり、小学生の立夏を夜に連れ出したり、マトモな大人には思えない。

「オレにキスなんかするし…。そーゆーヤツがタバコはハタチから、なんて法律守ってたなんて信じられるか」
「ああ、なるほどね。ごめんなさい、嘘つきました」
あっさりと謝る草灯は悪びれもせず笑っている。
そんな草灯に立夏はむぅっと眉を寄せる。

「オレの法律は立夏だからね。立夏がやめろって命令するなら立夏の前ではやめるよ」
そう言ってるそばから、またタバコを手にする草灯の手からタバコを取り上げる。
「体に悪いんだぞ。吸いすぎ」
立夏が来た時には灰皿に5本、吸い殻があった。
2時間の間に10本になろうとしている。
「そうかな」
「そうだよ。最近、増えてないか?」
立夏の言う通り、普段のペースより吸う本数が増えている。
「口が寂しくて。つい、ね」
立夏は無言で立ち上がるとテーブルの向かいに座る草灯に近づく。
肩に手を置くと、ほんの一瞬、短いキスを立夏はした。
「………」
「少し控えろよ」
完全に意表をつかれたが、自分からしたくせに立夏は顔を真っ赤にする。
逃げようとする立夏の腕を掴み、引き寄せる。
「立夏」
「離せよっ(するんじゃなかった!)」
ミミを伏せて顔を赤くしてじたばたする立夏を抱きしめる。
「ねぇ、立夏。もう1回して」
「ヤダよ!
だいたい、おまえといたら服にも髪にも匂いつくし、煙たいし目とか喉痛くなるしっ…」
「もう1回してくれたら、今日はもう我慢する」
草灯の言葉に立夏は内心、うーうー唸る。
草灯の健康のためにも、控えた方がいいに決まっている。
健康をタテにするなんてずるい。
「ホントかよ…」
「約束。破ったら、体罰を与えて」
「オレが暴力嫌いなの知ってるクセに…」
「じゃあ、なんでも立夏の言うこときく」
「それいつもと変わらないだろ。命令なんかしねぇよ」
「それじゃあ、どうしようか」
「……嘘は嫌いだ。約束して、破ったら…」
「破ったら?」
「口きいてやらない」
立夏の報復の仕方に草灯は一瞬、真顔になり、それから肩を揺らして笑いを堪える。
「それはコワイな…」
「嘘ばっか…バカにして…(くそーっ)」
「バカにしてないし、嘘でもないよ。立夏に無視されたら悲しいからね」
でも、かわいいなと思う。
立夏にしてみれば、せいぜいそれが限度なのだろう。
優しい子だから。
「わかった。約束する。だから、キスして」
「うー…」
「りつか」
顔を赤くしてミミを震わせて困っている立夏がかわいい。
「目…閉じろよ…」
「エー。立夏のかわいい顔が見れなくなる」
「早く目閉じろっ」
「はい」
強い口調で言われると逆らえない。
一度は目を閉じた草灯だが、片目を開けてみると立夏はぎゅっと目閉じて迷っているようだ。
(真っ赤になっちゃって。目閉じてて出来るのかなぁ)

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