ある日の任務
「監視、ですか」
二世は学校帰りに歩きながら電話で話す。

相手は現在、某所にて引きこもり中のご主人さま。
急に電話をしてきて何の用なのかと思えば、弟の立夏の様子の報告が欲しいという用件だった。
清明は世間的に死んだことになっている。
以前住んでいた場所から引っ越したとはいえ、やはり青柳家の近所に清明が行くわけにはいかない。
だけど、清明はどうしても愛する弟の様子が気にかかるらしい。

さして重要な用件でもなく、面倒くさいなと思いながら二世は返事をする。
「わかりましたー」
『興味がないのも面倒なのもわかるけど、頼んだよ』
電話の声で清明は二世の気分を察したらしい。
「興味持たれちゃ困るでしょ」
『困る?誰が?』
「アナタが」
『べつに?全然。困らないよ』
くすっと笑い声が聞こえて、二世は自信家だなと思う。

たしかに二世は立夏に興味はない。むしろ我慢強い立夏を見てると泣かせたくなるし、嫌いなタイプだ。
だけど他人が弟に興味を持ったら、清明はイヤなのではないかと思ったのだ。
もし、万一にでも弟が兄以外の人間を好きになったら?──そんな心配はないようだ。
気にかけるくせに、立夏が清明以外の人間を好きになるなんてありえないとでも思っているのだろうか?
清明はいつでもクールで笑顔というポーカーフェイスで、人を近寄らせない。
慌てふためいたり動揺したり、落胆したり。そんな人並みな感情が欠落しているんじゃないかとすら思ってしまう。

「まあ、とにかく、わかりました。あとでまた連絡します」
通話を切って二世はこれからの予定を考えながら歩く。
一度家に帰って着替えて必要なものを揃える。
それから青柳家へ着くのは暗くなってからになりそうだ。


青柳家が見える少し離れた場所にある廃墟で、二世は立夏の監視をする。
立夏は1階で夕食を食べ終え、一度部屋に戻ってからまたすぐに自室の明かりが消える。どうやら風呂に入ったようだ。
風呂から上がるまでの時間は休憩にしようと二世はタバコに火をつける。
はっきりいって、ただ見ているだけでヒマで仕方ない。

しばらくして立夏の部屋に明かりがついた。
風呂から上がった立夏はタオルで頭を拭きながら、行儀悪く紙パックのまま牛乳を飲んでいる。
適当に髪をブラシで梳くと、机に向かって教科書らしき本を開いた。
(宿題かな。フーン…真面目ー)
マナーモードにしている携帯の振動に気づき、ポケットから携帯を取り出すと二世は双眼鏡を下ろして携帯の画面を見る。
着信は清明からだった。
通話ボタンを押して二世は電話に出る。
「もしもし」
『どう?様子は』
監視を開始したっきり報告をしていなかったので、どうやら清明はしびれを切らして電話をしてきたらしい。
「特に変わった様子はなさそうですよ。夕食のあとに風呂に入って、今は…机に向かって…」
一度下ろした双眼鏡を覗く二世は、「ん?」と呟く。
『どうかした?』
「我妻草灯が来たみたいですよ」
ちょっと目を離した隙に部屋に入っている長身の男の来訪を二世は報告する。
『ふぅん…』
清明の声のトーンが少し変わった。
『それで?立夏は?』
「かまわず勉強してるみたいですけど。真面目ですね」
『僕がいなくてもちゃんと勉強してるんだ』
立夏をいい子だろう?と言いたげな、弟自慢のような得意げな声の清明に、なんとなく複雑な気分になりつつ、二世は双眼鏡で様子を見る。
「あっ…」
『何だい?何かあったのか?』
少し焦りを含んだような清明に二世は今見たことを誇張して言ってみたら、どうなるんだろう?という興味が湧いた。
「……これ、言ってもいいのかなぁ…」
『監視なんだから、きちんと報告しなさい』
心なしか清明の声がいつもと違うように聞こえた。
ちょっと不穏な、低い声だ。

Next≫
≪カップリングmenu
小説トップ
HOME
無料ホームページ掲示板