またね
学校帰りに迎えに来た草灯と散歩がてらに家までの道を歩く。
会話らしい会話もない。
「ここでいいよ」
「じゃあ、次の角まで」
そう言って草灯は握っている立夏の手を引く。

暖かい手。
別れ際はつい無口になってしまう。
別れがたいから──。
草灯のことを好きになってから、立夏の中でどんどん気持ちが大きくなっていった。

「ここで…」
もう家が見えるところまで来て、立夏は立ち止まる。
「ここまで来たんだから、家の前まで送るよ」
「ダメ。
今度はオレが見送るから、帰れよ」
「こうしようか。
お互い、背中合わせに歩いて帰ろう。振り向いちゃダメだよ」
「わかった」
つないでいた手を離して、背中合わせに立つ。
「じゃあね」
「うん」
「バイバイ」
背後から聞こえた草灯の一言に立夏はチクッと胸が痛んだ。

「バイバイ」という別れの言葉はあまり好きじゃない。
別れの言葉だから。
ごく普通の、当たり前の別れの挨拶なのに、好きじゃない。
このまま別れて、もう二度と会えなくなったら…そんな縁起の悪いことを考えてしまう。

また会えるし、会えなくても電話やメールは出来る。
でも、もっと一緒にいたいと思うのは自分だけだろうか?
毎日当たり前のように一緒にいた清明も、ある日突然帰って来なくなった。
消えてしまうのは自分の方だったのに。
草灯にも、もしかしたらこのまま別れて、夜目を閉じて眠ったら、明日は今の自分じゃなくなってしまうかも知れない……。

今の自分のままでずっといる保障なんてどこにもない。
今の自分で草灯が好きなうちに、もっともっと一緒にいたい。
だけど、それぞれ帰る家は別々にある。
まだ小学生の立夏は明日も学校があるので、外泊もそうそう出来ない。
仕方ないことだ。
わかっていても寂しく感じてしまう。

「………」
家の前まで着いてドアに手を掛けて立夏はちらっと後ろを振り返る。
「……!」
さっき、別れた場所に草灯が立っている。
それを見た立夏は来た道へと走って戻った。
「草灯…!なんで…」
「振り返っちゃダメって言ったのに」
服を掴んで見上げてくる立夏の頭をそっと撫でて草灯は笑う。
「草灯だって動いてないじゃん」
「そうだね」と答えながら草灯は立夏をぎゅっと抱きしめる。
最初から草灯は帰るつもりはなくて、見送る気だった。
立夏が振り返るのはわかっていた。
「バイバイって…」
草灯に抱きついたまま話す立夏に草灯は聞き返す。
「ん?」
「バイバイって、好きじゃない……」
「どうして?」
聞いても立夏は返事をせずにミミを下げてしまう。
立夏の頬を両手で包むようにして顔を上げさせ、草灯は話しかける。
「立夏、おまじないしてあげようか」
「おまじない…?」

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