Butterfly's Sleep
「草ちゃん、この後ヒマ?デートしない?」
午後の授業がひとつ休講になり、時間が空いたのでキオは草灯を誘う。
ほぼ同じ授業選択をしているので、草灯も今日は授業がない。
「デート?キオと?」
「なんか、文句、あんの?」
にっこり笑みを浮かべるキオだが目は笑っていない。
草灯の手に携帯電話があるのにキオは気付くが、あえてそのことには触れずに言う。
「画材見に行かない?たまにはキオさんに付き合いなさい」
「いいよ、行こうか」
言いながら草灯は手にしていた携帯をコートのポケットに入れる。
草灯はわりと受け身なところがあり、多少強引な方が断れないらしく、今日はすんなりとOKの返事だ。

「今日はバイトないんだ?」
「休み。たまには自分の時間なくちゃ。後でメシでも食いに行こうぜ。そうだ、どうせならどっか飲みに行こうか?最近あんまり行ってなかったし。なっ、決まり!」
草灯の返事を聞かずにキオは決める。
相手の都合をいちいち聞いてたら、きっと用事を作ってしまうのだろう。
強引なキオに草灯は断りはしなかった。
だが、何かを気にかけていることにキオは気付いていながら、知らないフリをする。草灯が気にかけている『何か』は、キオは聞かなくてもわかっている。

草灯が気にかけているのは、とある人物──相手は青柳立夏というまだ小学6年生の少年だ。
草灯が彼と関わるようになったのはつい最近のこと。
このところ草灯がご執心な相手で、さっき携帯を手にしていたのも、多分立夏に電話しようとしていたのだろう。
学校にいても目を離した隙に姿が見えなくなったと思えば、立夏に電話をしたり会いに行っている。
授業が早く終わったから立夏のところに行くことを考えていたに違いない。
ここ最近少しずつ、草灯に現れた変化はキオも気付いている。
草灯の口から彼の名を聞く回数が増え、それと比例するように以前はもう少し付き合いがよかったはずの草灯に、誘いを断られる回数が増えた。
だからキオはあえて、気付かないフリをして、立夏の名を出さないようにする。

「買う目的じゃなくても画材店って、なーんか落ち着くんだよな。こう、わくわくするっていうか」
「それはあるね。色々時間かけて見ても飽きない」
「だよな。今、必要じゃないものも欲しくなったり」
画材店に向かう電車の中で二人は画材や絵について話す。
「色が先行でイメージが湧く場合もあるし」
「そうそう。逆に何色を使うですっごい迷ったり。色の選択によって雰囲気変わるし悩むことある。違う色のがよかったかって失敗したなーとかさ」
「なかなかイメージ通りにはいかないトコはあるね」
「妥協したかないけど時間ないと悔しいっつーか」
「100%納得いくものって難しいな」
「そんなん巨匠にでもならなきゃ、一枚に時間かけてじっくりかかれねぇもんな」

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